Masuk「かなりの設備って?」遼大が聞くと、一条和輝が言う。「かなりの設備と言ったら、かなりだよ。EMSOの日本支局と同等かそれ以上」そう言われて私は遼大を見る。EMSOの日本支局は国内ではかなり大規模な設備を誇っている。「そうか……EMSOの地下階に閉じ込められていた千堂理なら、EMSOの設備の事も良く知っている……だからこその概算か」遼大がそう言うと、一条和輝が頷く。「ご名答」すぐにPCに向き合い検索をかける。「国内でもEMSOと同等かそれ以上の設備を誇るなんて、数か所しか無い筈ね」私がそう言うと遼大が頷く。「あぁ、たとえ秘密裏にそれが建設されていたとしても、機材や機器なんかは搬入している筈だ」遼大はそう言い、PCのキーボードをたたき始める。すぐに検索結果が上がって来る。数か所に絞られはしたけれど、それは表面上の数字だ。「パッと見た感じでは、千堂家とは繋がりが無さそうだが」そう言いながら遼大は画面を見ている。「まずはここに表示されている施設を重点的に洗う。それと同時にうちの方で少し機器や機材関係の搬入に関しても調べよう」遼大がそう言い、微笑んで一条和輝を見る。「和輝、サンキューな」そう言われた一条和輝が微笑む。「何て事無いさ。俺はただ単に情報を千堂理に共有しただけだ」私は一条和輝に聞く。「それで、千堂理の方はどう?」そう聞くと一条和輝が私を見て微笑む。「順調に検査結果が上がって来ているよ。リブートする為の薬品を今、千堂理本人とも話し合って計算中だ」そう言って軽く私にウィンクして見せる一条和輝の軽やかさに少し笑う。◇◇◇私と遼大で湊の穴を埋める為の回診に出る。藤堂氏の病室を訪れた時、藤堂氏が言う。「退院を伸ばして貰って悪いね」藤堂氏のリハビリは順調に進んでいて、退院しても問題無いと判断したけれど、本人の意向もあり、退院を伸ばしている。「いえ、藤堂先生が聖カトリーナに居て下されば、私たちとしても助かります」遼大がそう言うと藤堂氏が微笑む。「体調面での不安は無いが、私がここに居た方が、色々と動きやすいだろう」藤堂氏はそう言って微笑む。今回の千堂弘の一件で、医療機器の搬入や機材の会社など、そちらの方面でも藤堂氏には協力して貰っていた。すぐに連携が取れるのは有り難い事だった。「本当に助かります」私がそう言う
ほんの少しの間、睡眠を取り、私と遼大は支度をして早速、聖カトリーナに向かった。「まずは彼らがどこから入ったのか、それを確認しましょう」私がそう言うと遼大が頷く。「入館の記録は時間帯的にもそれ程、多くは無いだろうからな」遼大にそう言われて私は頭の中に、一瞬、嫌な予感が過った。けれどそれを口には出さずにいた。聖カトリーナに入り、自分のオフィスに入ると、湊がオフィスに入って来た。「おはようございます」湊は遼大にそう言い、そして私を見て言う。「おはよう、燈」私も遼大も湊に返事をする。「おはよう」湊はつい数時間前の愛沢くるみの件について話し出す。「俺の方でも色々と調べてみた」そう言って湊がタブレットを出し、私たちに見せてくれる。「うちの東駐車場付近に監視カメラが無いか、当たってみた」そう言って湊はタブレットをスクロールする。タブレットに映し出されたのは闇夜に映し出された真っ黒な車両。それ程、鮮明では無い画像だった。「残念ながらここの周辺の監視カメラを避けて走っているらしくて、この画像しか無かった」湊が悔しそうにそう言う。「これじゃあナンバーが見えないな」遼大がそう言う。「そうね、良く見えないわね」遼大が湊に聞く。「Nシステムには?」そう聞かれた湊が言う。「それは俺の方では何とも」少し困ったようにそう言う湊に遼大が微笑む。「じゃあ、それは俺の方で当たってみるよ」そう言って遼大がスマホを出し、どこかへ電話をかけ始める。「監視カメラを避けているなら、Nシステムも避けている可能性はあるわね」私がそう言うと湊が頷く。「その可能性は高そうだな」私は一度帰ってから思い付いた事について、湊に話してみる。「一度、ホテルに戻ってから色々と考えてみたんだけど」そう言って私は湊を見る。「私たちは侵入して来た彼らがどこへ行ったのかを探っているけれど、どこから入って来たかを探してみるのも手だと思うの」そう言うと湊の顔がハッとする。「そうか、なるほど」湊は持って来たタブレットを操作し始める。「彼らがどこから入ったのか、あの時間帯なら入って来る人間も限定出来る」そう言われて私はここへ来るまでに頭の中に過った事を話す。「でもね、盲点もあると思うの」そう言うと湊が顔を上げる。「盲点?」そう聞かれて私は苦笑する。「えぇ、だ
出る時は何も提示しなくても警備員に挨拶だけすれば出られる。けれど、じゃあ入る時にはどこから入ったのだろうか。通用口から入るのであれば、確実に入館証が必要になる。仮に患者として入って来たとしても救急の窓口の人間と何らかのやり取りは発生している筈だ。遼大と顔を見合わせて頷き合う。「それなら何かヒントを得られるかもしれないな」遼大がそう言い、そしてベッドまで来る。私に手を伸ばして、私の頬に触れると、微笑み言う。「少し休もう」そう言われて私も頷く。きっと今すぐどうこうという話では無い気がした。千堂弘の目的が愛沢くるみの奪取、そして愛沢くるみから採取出来る何らかの物質である以上、愛沢くるみを生かしておかないと意味は無い。海馬を破壊されるような抽出方法をとったのは、追い詰められていたという事もあるだろうと思った。だとするならば、逆に時間を与えた方が良いのかもしれない……そんな事を考えているうちに私は眠りに落ちていた。◇◇◇頭が痛い……何でこんなに頭が痛いの……寝返りを打とうとして、体が動かない事に気付く。何なの……何で私は動けないの……そう思いながら目を開ける。薄暗い感じがする……まだ夜が明けてないの……?薬品の匂いが鼻を衝く。徐々に鮮明になる視界と記憶。ハッとして私は目をカッと見開く。そうだ! 私……病室で誰かに……!そう思い自分を見る。身体全体が拘束されている。手首が実験台のようなベッドに固定され、更にその上から体自体も革のベルトで固定されていた。これ……!記憶の中の一番、怖かったものが呼び覚まされる。千堂弘の抽出術……。あの時、見た光景と同じ光景がまた目の前に広がっている。体をよじって拘束が解けないか、試してみるも、実験台のようなベッドはガチャンという音を立てて私の動きを封じている。呼吸が荒くなる。恐怖が湧き立ち、背筋を走り抜ける。「おや、目覚めたようですね」冷ややかな声。声の持ち主が視界に入って来る。白髪のマッドサイエンティスト。千堂弘。千堂弘はその冷たい顔に冷ややかな笑みを浮かべて私を見下ろしている。「前回は邪魔が入ったのでゆっくりと実験が出来ませんでしたからねぇ……」そう言いながら千堂弘は微笑む。何かを言おうと思ったのに、言葉が出て来ない。何で! どうして声が出ないの!そう思い声を上げようと試み
「この男たちはリネンカートをどこへ運んだのかしら」私はそう言いながら通用口から外へ出る。外は漆黒の夜。風が吹き抜けて、木々がザワザワと音を立てている。「ここに業者の車が停まっていたのか?」湊が警備員に聞く。「いえ、車は停まっていませんでしたけど」警備員がそう言う。「停まってない?」湊が聞き返す。「えぇ、停まっていませんでしたよ」警備員はそう言いながら通用口の左手奥の駐車場を指差す。「あっちに停めてるって言ってましたね。遠いのにご苦労様って言ったら、そちらも深夜帯の業務、お疲れ様って……」きっと和やかに会話をしたのだろう。怪しまれないように、善良な振りをして。「行ってみよう」遼大にそう言われて頷く。左手奥の駐車場。車が何台か停まっている。宿直の人のもの、関係者の車……。当然のようにそこにはもう、業者らしい車両は停まっていない。「ここにはカメラは無いのか?」遼大がそう聞くと湊が周囲を見回しながら言う。「あそこにある」そう言って湊が指差したのは外灯。少し離れた所に立っている外灯には丸い半円型のカメラが付いている。「チェックしよう」遼大がそう言い、私たちは再び、セキュリティー棟に戻る。◇◇◇「これだな」遼大がそう言って指差したのは、駐車場を映した監視カメラ映像の中の人物。大きなカートを押しながら二人の男性が歩いている。その映像を見ながら私も遼大も湊も皆がどの車に乗るのかと、思っていたと思う。けれどその二人組はどの車両にも乗らなかった。代わりに。そのままその二人組は駐車場の端までカートを押しながら歩き、茂みの中に入って行く。「茂みの中?」私がそう呟くと、遼大が言う。「ズームしてくれ」そう言われたセキュリティー棟の人間が映像を拡大する。茂みの中に入った二人組は白い何かを持ち上げると、胸の高さのフェンスを軽々と越えさせ、フェンスの向こうに居る誰かにその白い何かを渡している。そしてそのまま大きなカートをサッと手早くたたみ、そのカートもフェンスを超えさせ、自分たちもフェンスを乗り越えた。フェンスの向こうには暗闇に紛れるように真っ黒なワゴンが停まっている。そのワゴンに全てのものを積み終えると、ワゴンのドアが閉まり、走り去る。「病院の中に停まっていた訳じゃ無かったんだな」遼大がそう言って苦笑する。確かに病院内
「何か物音は聞こえなかったか?」湊が看護師に聞く。看護師たちはみな揃って、首を振る。「監視カメラの映像をチェックしよう」遼大がそう言う。「そうね、その方が早そうだわ」私がそう言うと湊が頷く。「一応、このまま病室の方は証拠保全の意味も含めて、誰も立ち入らないようにしておこう」湊はそう言って看護師たちに言う。「このまま誰も病室には入らないよう、手配してくれ」◇◇◇私と遼大、湊の三人で深夜の病棟を出て、セキュリティー棟へ行き、監視カメラの映像を確認する。時間を遡っても、愛沢くるみの居た病室の廊下には、異常は見られない。誰も歩かず、静かなものだった。「何も映ってない……」そう呟きながら湊が考え込む。「もう一度、もう少し時間を遡って流してくれ」遼大がそう言うと、監視カメラの映像がもう一度流される。映像を注意深く見る。一瞬だけ、監視カメラの映像が乱れる。私と遼大はそれを見て、顔を見合わせる。「差し替え……」私がそう言うと遼大も頷く。「有り得る話だな」そう言って溜息をつき、腕を組む。「考え得る経路、全部の監視カメラの映像をチェックしましょう」湊が遼大にそう言う。「あぁ、徹底的に映像をチェックした方が良いだろうな」遼大がそう言う。◇◇◇私たちはそのまま、あらゆる可能性を考えて、あらゆる経路の監視カメラの映像をチェックした。その中で一つだけ、映像の片隅に動く何かを見つける。「ねぇ、これ……」私がそう言うと、遼大が覗き込む。「ちょっと待ってくれ……ここをズームして」遼大が映像を指差し、指示を出す。映像がズームする。そこに映っていたのは。大きなリネン回収用のカートを押す男性二人組。パッと見、清掃業者のような制服を着ているけれど。「こんな深夜帯に回収をする業者なんて見た事無いわね」私がそう言うと遼大が頷く。「あぁ、有り得ない」見つけた映像は病棟の最東端、愛沢くるみが入院していたあの部屋に近い。そして。「エレベーターに乗ったな」遼大がそう言いながら、今度はそのエレベーターの映像を出すよう、指示をする。セキュリティー棟の人が映像を切り替えてくれる。映像がエレベーター内のものに切り替わる。日時を指定すると、現れた映像には、大きなリネン回収用のカートを押す清掃員の格好をした男性二人。リネン回収用のカートの中はシーツで
「俺は高嶺邸でお祖母様と話した時、どうして燈に関するファイルがそこにあるのか、とそう考えた。そしてそれは反高嶺派の人間が送って寄こしたものだろうと思っていたが」遼大はそう言って少し溜息をつく。「それが見合いを進める為、そしてその後の東都メディカルへの陽動作戦だったと考えれば、あのタイミングでお祖母様から見合いの話が持ち込まれた事にも納得がいくんだ」遼大にそう言われて私もそう思う。立て込んでいる状況で持ち込まれたお見合いの話。唐突に遼大が戦力として離脱しなければならなかった。更に、東都メディカルと千堂家の繋がりを匂わせ、もしかしたら東都メディカルも一枚噛んでいるのかもしれないと思わせる……そうする事によって、自分たちが確保している愛沢くるみへは関心が薄くなる……。「怪我の功名はあったけどな」そう言って微笑む遼大は、賀神さんと御堂院静香の事を言っているのだろうと分かる。「とにかく現場を見てみないとね」私がそう言うと遼大が頷く。◇◇◇聖カトリーナに到着する。時間帯的にも裏の緊急搬入の為の出入り口しか空いていない。私と遼大がそこへ向かうとそこで湊が待っていた。「湊くん」遼大が声を掛ける。「高嶺さん、燈」湊も連絡を貰ってすぐに飛び出して来たのだろう、シャツとスラックスという軽装だった。「とにかく、中へ」湊がカードキーをタッチして重い自動ドアを開け、私たちは足早に院内へと滑り込む。「出入口はあの夜間の出入り口しか無いのよね?」歩きながら私がそう聞くと、湊が言う。「患者や医師などが出入りできるのはあの夜間の出入り口しか無いが」湊はそこで言葉を区切る。「業者は分からない」そう言われて私は聞く。「業者?」そう聞くと湊が言う。「どういう経路で愛沢くるみを連れ去ったのか、全く分からないんだ」そう言いながら歩く私たちの足音が深夜の病棟に響く。「俺は聖カトリーナに到着するまでに、いくつかの経路を予想した。可能性として一番高いのは、愛沢くるみを何らかの方法で意識を失わせ、搬入用のエレベーターで地下階へ行く方法だ」湊にそう言われて頷く。「そうね、それがおそらく一番、無難な方法ではあるわね」地下階へ行ってしまえば、そこから車で運び出すのは容易だ。でも。「それだと地下階からの車両の出入りのログが残るな」遼大がそう言う。「そうなんです、







